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ペット豆知識No.14-眼に入れても痛くない豆知識・眼は緊急疾患です-

 映画『カサブランカ』で有名なハンフリーボガートはウインク一つで女優を落とす名士と言われたそうです。あの渋い声で、パチっとウインクした後「君の瞳に乾杯…」なんて言われたらどんな女性もコロっといってしまうのでしょうか?それはさておき、イヌ、ネコは、女性を落とすためでも見得を切るときでも、絶対ウインクはしません。え?ウインクをするんですか?それは眼疾患かもしれません。

 まず、簡単に眼の構造を説明します。国家試験勉強時に書いた図を下に載せておきますので、くわしくはそちらを参照してください。眼球は、3層の膜で構成されます。
外層は、角膜(黒目の部分)、強膜(白目の部分)。中間層は、ブドウの皮のような構造なのでブドウ膜(虹彩、毛様体、脈絡膜をあわせてブドウ膜という)内層は網膜で構成されます。
 眼球内は、レンズの役目をする水晶体、そして眼球の主体である硝子体が存在します。眼圧を維持する眼房水は常に毛様体から分泌され、前眼房のシュレム管から吸収されており、分泌と排出のバランスで眼圧の調整を行います。虹彩は、カメラの絞りの部分に相当し、光量を調整します。水晶体はレンズの部分に相当し、毛様体の収縮や弛緩(散瞳と縮瞳)によってピントを調整します。そうして入ってきた映像は網膜でキャッチされ、視神経乳頭から視神経へと連絡し、脳へ伝達されて結像されます。

 目のトラブルで一番多いのが、角膜疾患です。角膜は0.5mm〜0.8mmの透明な組織で、外側から上皮、実質、デスメ膜、内皮で構成され、病変が内部まで浸透するほど、角膜疾患のグレードが上がります。
 角膜損傷は異物(木片や睫毛など)が目に入ったり、ケンカや自分の爪が目に入ることで傷がつき、重度で慢性化するとは潰瘍へと進展します。来院するほとんどが角膜疾患(眼科疾患の25%以上)といっても過言ではありません。偶発的に傷がつくため、通常、片側だけに病変が見られます。傷ついた方の目は不快感があり、涙がでたり、目をつぶったり、眩しそうにするため、そう、ウインクをするのです。特にギョロ目の犬種(シーズー、パグ、ペキニーズ、チワワ、フレンチブルなど)では、飛び出している分(眼球突出)傷が入りやすく注意が必要です。
 目の治療は、傷が出来てからのスピード勝負です。早い段階で処置をしないと、傷はどんどん奥まで侵攻し、ひどいときには内側の実質が外に飛び出してしまいます(角膜穿孔)。そうなると手術が必要となることも少なくなく、もはや視力の回復は望めないこともあります。
 異物やなんらかの刺激で起きる疾患としてよく起きるのが結膜炎です。角膜損傷や角膜潰瘍に付随することもありますが、細菌、ウイルス、薬物、異物、外傷、アレルギー、花粉などで炎症が起きます。猫の結膜炎では、その20%にクラミジア感染が見られ、ほかの20%にヘルペスやカリシウイルス感染が見られます。子猫で発生しやすく、結膜の充血と浮腫がおもな症状です。これも早期の治療が予後に響きますので、迅速な対応が必要となります。診断はフルオレセインという蛍光色素を角膜に垂らした後に洗眼し、色素が角膜上に付着して残ることによって確定されます。これは角膜上皮が剥れ、角膜の実質が剥き出しになっていることを意味しています。
 治療法ですが、当院で「眼の123」といえば
々灰灰薀殴福璽失淌栖稾(コラーゲン分解酵素が局所的に放出され、これが治癒を遅らせるため)
抗生物質点眼薬(一次的なまたは二次的な細菌感染の阻止)
:抗生物質眼軟膏(抗菌に加え、目の保護)
で通っており、早期の処置であればこの「123」でほとんどの角膜潰瘍が完治します。一日3回以上の点眼をして、眼を掻かせないためにエリザベスカラーをつけることも大事です。(特に、透明でない硬めのカラーを付けるとワザあり!理由は内緒♪)

 先ほど、異物(木片や睫毛)と書きましたが、睫毛(まつげ)も異物となることがあります。乱生睫毛、重生睫毛、異所生睫毛といって、本来睫毛が生える場所とは違う、例えば角膜に反応を起こす場所に睫毛が生えることが犬では多々あります。逆さまつげもその一つです。こういった睫毛は慢性的に眼に刺激を与え、上記の角膜損傷や角膜潰瘍、結膜炎、それに色素性角膜炎(慢性刺激によって角膜にメラニン色素が沈着する)などがおき、これらは「123」をしても、原因の除去(つまり余計な睫毛を抜くこと)をしなければ、いつまでたっても良くなりません。意外と見落としがちな疾患の一つです。
 他にも、涙液の障害で起きる乾性角結膜炎(KCS:Kerato Conjunctivitis Slicca)や猫の好酸球性角膜炎、角膜ジストロフィー、慢性表在性角結膜炎(パンヌス:pannus)など、角膜には多くの疾患があります。
 KCSは、特にギョロ眼の犬種で多いです。眼が大きく飛び出しているために、ドライアイになりやすく、兎目といって、睡眠中も目が閉じきらないような犬によく起ります。眼の表面は光沢がなく濁ったような色をして、黄色い目脂(めやに)が眼球を覆います。涙液量の低下に起因することが多いため、涙液量測定(シルマー涙液試験)で正常に涙液産生が行われているか確認します。これも多い病気ですね。
 ところで、プードルやシーズー、チワワ、マルチーズ、ダックスなど、おたくのペットは涙やけしていませんか?「なんか右側だけ涙が出てて茶色くなってるのよね〜」なんて言葉をよく耳にします。もちろん逆さまつげなどの原因もありますが、それが否定された場合は、鼻涙管閉塞かもしれません。目から鼻に抜けるはずの涙の排出路が何らかの原因で詰まってしまい、いつも涙があふれているように見えるのです。風呂の栓をしたままお湯を張り続けているようなものです。(泣いたときは鼻水が出ますよね。ぐすんぐすんって。あの鼻水の一部は涙なんですよ。)これにもフルオレセインが活躍します。一滴たらして、10分経っても鼻から緑の蛍光液が抜けてこない場合はほぼ間違いなく鼻涙管閉塞でしょう。鼻涙管を洗浄すると開通することもあります。

 さて、眼の病気で有名なのは白内障、緑内障です。白内障は眼が白くなって、緑内障は眼が緑色になるとおもっていませんか?
 白内障(Cataract)は、「水晶体がなんらかの原因で混濁した状態」と定義されます。簡単に言えば白くにごった状態ですね。白内障の原因は様々ですが、主に加齢性、および遺伝性です。レンズとして働く水晶体がにごるため、当然のことながら視力に傷害を及ぼします。根本的な治療薬は残念ながらありませんが、老齢性の白内障の場合、進行を遅らせるピレノキシン(蛋白変性をおさえ、白内障の進行を遅らせる)が点眼されます。視力を回復させる手術もあるにはありますが、非常に細かい手術のため眼科専門医が必要になります。
 緑内障(Glaucoma)は残念ながらみどり色になるわけではありません。どうして緑という字がついたのかは分かりませんが、緑内障は眼圧(IOP)の上昇に起因する永続的な眼障害を呈します。眼圧とは、眼房水の産生過剰や、眼房水を吸収するシュレム管(隅角)の閉塞などによって上昇し、白内障とは違い、非常に痛がります。眼圧は通常10〜25mmHgの間で維持され、犬では25mmHg以上、猫では31mmHg以上で緑内障と診断されます。犬の場合、40〜60mmHg以上の眼圧が1週間以上、早ければ2日程度で永久に失明すると言われています。眼圧測定は人間のように一瞬で簡単に検査できるものではなく、トノペンという測定器を使って調べます。
 症状は、初期には結膜の充血や眩しそうにするといった、他の目の疾患と同じ症状ですが、持続する眼圧上昇とともに激しい疼痛、赤目、瞳孔散大、角膜混濁、さらには牛眼と表現される、眼が飛び出しそうなほどギンギンになって両目が外側を向くような症状を示すようになります。発症から48時間以内の処置が視覚回復の見込みがあり、利尿薬や、房水産生抑制剤、房水排泄促進剤、縮瞳薬などで眼圧を急激に下げる必要があるいわゆる救急疾患です。

 もうひとつ重要なぶどう膜炎(Uveitis)は、ぶどう膜(虹彩、毛様体、脈絡膜)の炎症をいいます。角膜と違い、ぶどう膜には血管が密に存在するが故に炎症がおきやすい場所といえます。イヌ、ネコでは、前部ぶどう膜、つまり虹彩や毛様体に炎症がおきやすく、それは後部ぶどう膜(脈絡膜)にまで波及していくため、眼底鏡の検査も必要に応じて行います。その原因は多岐にわたり、感染(犬伝染性肝炎、レプトスピラ、トキソプラズマ、フィラリア、猫白血病、猫エイズ、猫伝染性腹膜炎、子宮蓄膿症など)、外傷(穿孔や鈍性外傷)、代謝性(糖尿病、高脂血症など)、免疫介在性(全身性エリテマトーデス:SLEなど)、腫瘍など挙げればキリが無いほど多くの原因があります。しかも、臨床では原因不明なことが多く、従って治療法に関しても一概には言いづらい部分がありますが、基礎疾患の治療に加えて、その原因に応じてステロイドの内服及び点眼薬、抗生物質点眼薬、免疫抑制薬などを処方します。

 網膜や視神経の病気も見逃せません。進行性網膜萎縮(PRA)は初期に夜盲といって、暗い場所での視力が低下し、徐々に網膜が萎縮していき、最終的な失明を免れない怖い病気です。これも最近ミニチュア・ダックス散見される病気のひとつですね。

 ざっと眼の病気を紹介して参りましたが、はっきりいってまだまだたくさんの病気があります。しかも、これらは併発することが多く、例えば、角膜潰瘍と結膜炎とブドウ膜炎が同時に起き、そのまま色素性角膜炎に進行したところ、原因は逆さまつげであったなんてことも珍しくありません。
 目の病気は気づいてあげられやすい疾患です。ウインクをしている、涙がでている、充血している、かぴかぴに乾いている、目やにが多い、かゆがる、白くにごってきている、眼球が飛び出んばかりにギンギンしているなどなど。われわれは動物の目を見て接します。一番よく目にする、その麗しい目。うっとりしている場合ではなく、異常があればすぐに病院に連れて行きましょう。失明してしまう前に早めの処置をお願いします。

 次回は猫の慢性腎不全です。お楽しみに。


文:小川篤志


固定リンク | 2008年10月06日【29】

ペット豆知識No.13-善は急げ、犬・猫の避妊と去勢-

避妊、去勢はもうお済み?

 人間でいえば、避妊や去勢というのは生命としての生殖能力をゼロにするという意味で、特に去勢は古来では極刑に近い拷問として行われていました。発端は刑罰でしたが、古代中国(清時代まで)から東アジアにまで広がった宦官(かんがん)とは、宮廷に仕えることができる代わりに男性器を切り落とさなければならない究極の職業でした。うち3割は細菌感染によって死亡したといわれています。ある程度の地位を約束された職業であるとはいえ、女帝や後宮に対する潔癖を誓うために自ら去勢をするとは、同じ男として想像を絶します。
 しかし、人間社会ではそんな非道だとも思える手術もイヌ・ネコでは極めて一般的に行われています。なぜでしょうか?その理由をどこまでご存知ですか?そのわけを今回は詳しく探っていきましょう。

オスの場合(去勢手術)
 まず、一般的な理由としては、攻撃性や凶暴性を和らげるためだとか、協調性をもたせるためとか、あるいは無駄吼えをなくすといった問題行動を改善するという面で行われます。しかし、獣医師の立場からいえば、主に病気を予防する意味で去勢術を勧めます。去勢術とは、精巣を両方取ることによって完了します。特に陰茎をとったりすることはしません。
 精巣からはアンドロジェン(テストステロン)やエストロジェンが内分泌され、それらのホルモンが体にさまざまな変化をもたらします。しかし、その『変化』の中には悪性に作用する場合もあり、これが去勢を行う理由の一つとなります。
 まず、多いのは前立腺疾患です。イヌの前立腺は発達がよく、高齢になればなるほど大きくなっていきます。しかし、それが過剰に肥大すると前立腺肥大症と診断され、肥大した前立腺は、物理的に尿道や直腸を圧迫し、排尿困難、排便困難といった症状を惹起します。そのほかにも前立腺肥大からの前立腺嚢胞、感染が関与する前立腺炎、それが進んだ前立腺膿瘍などがあります。ネコは前立腺の発達が悪いため、めったに起ることはありません。
 ホルモン感受性疾患といえば、肛門周囲腺腫も重要です。肛門周囲腺とは、主に肛門の周囲やしっぽの付け根にありますが、意外にも大腿部、包皮、または腹や背中にも存在する皮脂腺の一種です。ネコには存在しません。これもアンドロジェンやエストロジェンの関与が考えられ、一般的に未去勢オスで発生し去勢済のイヌで発症するのは極稀です。発症しても、ホルモンの元を断つという意味で、治療的な去勢手術によって収まる(95%以上)疾患です。90%は良性の腫瘍ですが、10%が悪性です。いわゆる腺ガンですね。転移も起こす危険なガンですので甘く見ずに細胞診( FNA : Fine Needle Aspiration …細針で患部を刺して吸引し、細胞を採取して診断する方法 )を行い、白黒はっきりさせる必要があります。
 また、会陰ヘルニアも男性ホルモンが関与します。会陰部とは肛門の両サイド(坐骨結節との間)のことを言い、ここの筋肉が分離して直腸や脂肪、膀胱などの臓器が会陰部皮下に脱出する状態を言います。ヘルニア孔から脱出する臓器にもよりますが、症状が重い場合は早急な手術が必要です。手術でヘルニアは治まりますが、再発性の高い疾患であり、困難を極めることが多いやっかいな病気であることを覚えておいてください。
 精巣がある場合には精巣腫瘍も起ります。特に、潜在精巣(陰睾)では腫瘍化する可能性が極めて高く、「タマタマが一個足りない!」という方や「去勢してないのに二つとも無い!!」という方はすぐに去勢をすることをお勧めします。潜在精巣とは、胎児の時にお腹の中にある睾丸が、生後に陰嚢(いわゆる玉袋・・・)に落ちてこず、お腹の中に閉じ込められたままの状態を言います。イヌでは結構多いんですよ。
 あまりネコの話がでてこなかったのでアレ?とお思いでしょうが、実際ネコの去勢は、ほとんど疾病の予防に関しては行われません。どっちかといえば最初にお話したメスに対してのけん制と言う意味で希望される方が多いようです。特に春先はサカリ盛りでうるさくて仕方ないですものね。他にも去勢していないと屋外に出してくれアピールが激しかったりして、じゃあ出してやろうと出してみるとケンカして帰ってきたり、それが元でエイズに罹ったりと散々な目に合います。

メスの場合(避妊手術)
 避妊手術は去勢手術と異なり、獣医師の数だけ術式があるといわれるほどスタンダード(基礎的)な手術であり、獣医師なら誰もが通る登竜門といった手術です。これが立派に出来るようになれば、獣医という肩書きをちらつかせて合コンに参加しても許されるでしょう。それだけマイ避妊術がそれぞれにあるため、たま〜にですが、手術のやり直しをしなければならない乱雑なオペをされたかわいそうな子も来院したりします。聞いた話では、避妊手術をするために入院したら、妊娠して帰ってきたなんていう仰天エピソードもあるそうです。シャリの不味い寿司屋に名店はありません。そういうことです。
 さて、避妊手術は、去勢よりも意義があるかもしれません。なぜなら、これからお話する病気は、去勢のところで話した病気よりも、より重篤でより緊急性の高いものであるからです。
 まず、最初に話さなくてはならないことは、乳腺腫瘍つまり乳がんです。イヌの全腫瘍のうち、実に60%をしめるのがこの乳腺腫瘍です。この乳腺腫瘍、早めの避妊手術が功を奏します。初回発情(始めての生理)以前に避妊手術をした場合、その発生率はなんと1万頭に5頭(0.05%)まで下がります。しかし、発情を経験すればするほど、避妊手術をおこなっても発生率は上がっていきます。3回以上発情を経験したイヌでは乳腺腫瘍に対する効果は殆どないと言われています。初回発情は、個体差もありますが、8〜10ヶ月齢で起きるのが一般的ですが、早い子では生後半年ほどで経験する場合もありますので注意が必要ですね。(乳腺腫瘍についての詳しくは院長講義のこちらを参照)
 結局のところ、乳腺腫瘍は発生するリスクは否めませんが、ほかに完全に発生を予防できる病気があります。それは卵巣、子宮疾患です。物理的に卵巣と子宮を摘出するのが避妊手術(実際には、子宮は残して卵巣だけ取る先生もいますが・・・)ですから、完全予防できて当然と言えば当然です。
 そのなかでも子宮蓄膿症(Pyometraパイオメトラ)は病期によっては著しく致死性が高く、しかも極めて高頻度で発生する怖い病気です。文字どおり、子宮に蓄膿つまり膿みが溜まる病気です。明確な原因は未だはっきりしないというのが現状ですが、有力な説は、いつもは閉じきっている子宮頚管が、発情時に精子を受け入れるために開くことで、膣から感染がおきます。その殆どは大腸菌(Esherichia coli)が原因(80%以上)で、肛門などから膣内に感染します。いったん子宮内に侵入した菌は怒涛の勢いで増殖し、大量の膿みを形成します。遊園地などでピエロが細長い風船をぷくーっと膨らませてプードルとかリボンとかそういうものを作るパフォーマンスをしますよね。まさにあの感じで、普段は細い子宮が水風船みたいにパンパンに膨れます。症状は実に多様で、発熱、食欲廃絶、多飲多尿、元気消失、腹痛、嘔吐、外陰部からの排膿、ブドウ膜炎などで、急性症状の場合は一週間で重篤となります。
 治療は、まさに避妊手術です。つまり子宮と卵巣を取り除きます。発見次第、早急な手術が必要になります。膨らみすぎた水風船が破裂するように、子宮破裂を起こし腹膜炎を併発したり、細菌の産生する毒素が血中を回ってショック状態に陥ったりする場合もあり非常に致死性の高い病気です。しかも手術が上手くいったとしても術後合併症(例えば急性腎不全など)のリスクが高く油断ならない病態なのです。
 もちろん予防は避妊手術です。何度もいいますが、避妊手術をすれば絶対にパイオメトラにはなりません。そのほか、子宮水症、子宮の腫瘍(平滑筋腫など)、卵巣腫瘍(顆粒膜細胞腫、腺癌など)、卵胞嚢腫など様々な病気を予防することができます。


 とどのつまり、イヌネコの避妊・去勢は刑罰のためにするわけでも宮廷に仕えさせるためでもなく、『疾病の予防』のために行うのです。デメリットといえば、まず手術のリスク(麻酔に絶対の二文字はない)、子供を生めなくなる、そして術後に太りやすくなるといったところでしょうか。
 もし、飼い主さんに避妊去勢、特に避妊手術をした方がいいのかと聞かれれば、僕ならこう言います。
「子供を生ませるつもりがないのなら、しましょう。」


(注)最近、未避妊イヌの中・高年齢での子宮蓄膿症の罹患率は60%以上(10頭中6頭以上)という報告もあります。

(追注1)イヌの潜在精巣の腫瘍化のリスクは正常の13倍以上と考えられています。

(追注2)ネコにも潜在精巣は存在しますが、イヌとは異なり精巣腫瘍のリスクファクターにはなりません。したがって、ネコで精巣が腹腔(腹)内にある場合には去勢をする必要はありません。いずれにしてもワクチン接種の際に、性別と精巣の位置をキ・チン(洒落です)と確認してもらいましょう。



文:小川篤志


固定リンク | 2008年09月28日【27】

ペット豆知識No.12-恐れることなかれ! 椎間板ヘルニアは克服できる病気です-

激痛!椎間板ヘルニア

 いよいよ台風シーズンですね。先日の台風は宮崎での初体験となりましたが、やはり東京とは比べ物にならない破壊力でした。出来立てほやほやのやんちゃな台風には正直驚きました。以前レプトスピラについての特集をしましたが、台風シーズンは伝染病が流行ります。これからが本番です。台風自体もそうですが、『2次的被害』にも十分注意してください。


-椎間板ヘルニアとは-
 台風では家屋や施設が傷みますが、今回は腰が痛む話です。椎間板ヘルニア、イヌに限らず人間でもぎっくり腰や慢性の腰痛に悩まされている方は多いことでしょう。椎間板とは、文字通り、脊椎と脊椎の間にある板のような軟骨組織コラーゲンとゼラチン質から出来ています。お肌によさそうなプルプルな名前ですね。まさにそうで、これは通常、椎骨にかかる衝撃を和らげるクッションのような役割をしています。その椎間板の一部(中心にある髄核、あるいは外側を覆う繊維輪)が何らかの原因で背中側へとヘルニア(臓器の一部が本来あるべき腔から逸脱した状態『大辞泉』より引用)を起こし、すぐ上を走る脊髄(神経)を圧迫して様々な神経疾患を起こす病気が椎間板ヘルニアと言われます。
後に詳説しますが、椎間板ヘルニアは急性に症状を現すことが多いです。突然うずくまったまま動かなくなったり、キャンと叫んだあと背中をとても痛がる様子を見せたり、後ろ足を引きずったまま前足だけで一生懸命歩いたりします。腰(腰椎)ではなく、首(頚椎)でヘルニアを起こした場合は、首から下が完全麻痺してしまうことすらあります。ではどういった犬がこのような椎間板ヘルニアを起こしてしまうのでしょうか。

-ダックスの専売特許と言われるくらい…- 
 さて、椎間板ヘルニアといえばやはりダックスフントでしょう。全ての犬種において、またごくまれに猫でも発症することがありますが、臨床的にはダックスの専売特許といっても過言ではありません。なぜダックスで多いかといえば、胴長短足の脊椎に負担がかかりやすいという体型に加え、軟骨異栄養性犬種といってダックスを初め、シーズー、ビーグル、ウェルシュコーギー、スパニエル系、ペキニーズなどは先天的に髄核(椎間板の中心を成すゼリー状の物質)が軟骨化しやすいためです(軟骨様異形性)。生後6ヶ月くらいからこの軟骨化が始まり、3年くらいすると髄核の水分が徐々に少なくなり、やがてその周りを覆う繊維輪までもが変性し始めます。すると、今までのように歩いたり飛んだりして椎骨にかかっていた衝撃を分散できずに、何かの拍子に髄核が弱くなった繊維輪を飛び越し、すぐ上を走る脊髄や神経根を圧迫して、大きな痛みや神経障害を起こすのです。(下図参照)実は椎間板ヘルニアにはHansen儀燭Hansen況の2種類があり、いま述べたダックスのヘルニアは、前者の方に当てはまります。急性におき、また犬種特異性があるHansen儀燭砲らべ、況燭任枠羈單慢性に症状が進行し、また犬種による特異差はあまりありません。つまりどの犬種でも起こりうるということです。況燭任老齢性に繊維輪の変性が進行し、繊維輪全体が肥厚してくることで脊髄を圧迫します。徐々に肥厚が進むため、症状は慢性的に進行するというわけです。
Hansen儀燭凌啜淦例では、緊急的な手術が必要な場合があります。その判断を下すにあたり重要となるのが、World Standardな椎間板ヘルニアの5段階グレードです。

-椎間板ヘルニアのグレードとその症状-
グレード:背中の疼痛(バックペイン=背部圧痛)。歩行は正常である。
グレード:背中の疼痛。運動失調(不全麻痺)をきたすが、かろうじて歩行可能。
グレード:完全麻痺がおき、歩行は困難(随意運動不能)。
グレード:歩行不可能。排尿制御できず(排尿不能)。深部痛覚あり。
グレード:歩行不可能。深部痛覚の消失。


 グレード機銑兇任蓮⊃祐屬埜世Δっくり腰といったところでしょうか。背中をさわると痛がったり、後ろ足をふらつきながら歩くような症状が見られます。靴砲覆襪函不全麻痺のために後肢はだらりと力なく、正常に歩くことはもはや出来ません。通常、グレード薫幣紊両瀕磴縫ペ適応となります。グレード犬任脊髄障害側から後方は完全麻痺となり、後肢がまったく動かなくなるのはもちろん、排尿排便が自分の意思でコントロールできなくなります。しかし、深部痛覚(手術用器具などで肢を強くつまむ)は残っています。それがグレード垢砲覆襪半端し、これが緊急手術を行う判断に非常に重要な手がかりとなります。
 深部痛覚が存在しない場合、重度の脊髄機能障害が存在することを意味し、消失後48時間以内に手術が必要になります。それを過ぎると、術後の回復率は5%以下といわれ、しかも、例え48時間以内に手術をしたとしても回復率50%前後と非常に厳しい状態であるといえます。なぜ時間が関係するかというと、重度の脊髄損傷が起きると損傷部位を中心に軟化(壊死のこと。脳や脊髄に対しては軟化と表現する)が起き、放置すればするほど軟化は進み、最終的には呼吸筋麻痺によって動物が死亡してしまうためです。死亡するまでとはいかなくても、48時間が運動機能を回復させられるギリギリの時間なのです。
 院長直筆の椎間板ヘルニア講義によると、『機銑凝戮任皸太鼎籠皺蔑屠,鉾娠しない場合、特に痛みが緩和されなければ手術を躊躇すべきでない』とし、いかにこの疾患の外科的意義が高いかを物語ります。(内科的、外科的治療法の予後については、院長講義参照のこと)


-治療-
 手術法は、ヘルニアを起こした部位と程度によって異なりますが、どうであれ、実際の手術は非常に厳しいものであるといえます。なぜなら突出した椎間板物質を除去する際に、そのすぐ近くを走る脊髄神経、脊髄血管、さらに脊柱管の中を走る静脈洞を障害すると脊髄軟化(壊死)や大出血を起こすために細心の注意が必要です。動物病院では比較的一般的に行われる手術ではありますが非常に複雑かつ繊細な手術のため、術者のテクニックがカギとなります。
 術後は絶対安静が重要です。手術中の出血コントロールはできます。しかし術後に暴れてしまうと、先ほど述べた静脈洞からの大出血が起き、そうなるとまず助かりません。数日間の入院と、退院後の徹底的なケージレスト(ケージの中で安静に過ごさせる)で大概の症例は予後良好でしょう。
 また、手術適応でない軽度のヘルニアの場合はステロイドビタミン剤の内服に加え、リハビリを行う内科的治療法がとられます。


-カギはリハビリ!-
 院長講義と重複しますが、結局手術をしてもしなくても、一番大事なのはリハビリテーションです。実際、グレード靴泙任両瀕磴任脇段未覆海箸無い限り当院では手術をしません。それは手術に臆病になっているわけではなく、手術なしでも治るからです。
 病院によっては傷害グレードが低くてもオペをしたがる獣医師もいますが、もちろん動物の負担にならず、飼い主さんの財布の負担にもならなければそうした方がいいことは明らかですよね。
 リハビリには、とにかく『足に本来の動きを思い出させる』ことが大事です。当院では、タスキ様の布をつかって腰を吊り地面に接着する感覚を何度も何度も味わせたり、バスタブにお湯を張り遊泳させたり、さらに飼い主さん自身の手で足を曲げ伸ばしするといった方法を、最低でも2週間、行ってもらうことを推奨しています。そういったリハビリ療法が元通りに歩くための一番のポイントです。我々獣医師も一生懸命治療しますし、飼い主さんも一生懸命になって初めて椎間板ヘルニア治療は完結するのです。


-最後に-
ヘルニアはある程度予防ができます。どうすればいいかというと、

1:太らせない。
2:ソファーやベッド、階段などの昇り降りは厳禁!(昇降運動の阻止)。
3:抱くときは、体が必ず地面と平行になるように。抱き上げるときも縦にならないように心がける。


など、日常的に出来ることばかりです。番号をつけましたが、優先順位があるわけではなく、この3つ全てが大事です。ヘルニアにならないためのワクチンだと思って、特にダックスは幼いときからのしつけの一つとして心がけてください。
 ちなみに、僕の実家にいるランディさん(M・ダックス 10歳)は5年前にグレード4の椎間板ヘルニアを起こしました。もちろん我が大学病院で一両日中に手術を行い、一生懸命リハビリした結果、今は元気に暮らしています。しかし、発症したときは目もあてられないほど痛がり、かわいそうでかわいそうで涙が出たのを覚えています。整形疾患では権威である原康助教授に手術をしていただきましたが、術中その鮮やか過ぎるメスさばきも、学生である僕への親切な説明も、僕にとっては遠くで響くお経のように聞こえました。それほど痛たましい病気であることを少しでも認識していただき、上記の予防三点セットを始めるきっかけになればいいと思っています。

文:小川篤志



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