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ペット豆知識No.18-腹囲膨満・お腹パンパンそれ肥満?-

 かわいくも見えるポンポコおなか。それ、かわいいだけで済ませてませんか?妊娠しているだけですか?ただ太っているだけですか?急激な腹囲膨満は重篤な病気がたくさん。緊急処置をしなければ死に至るものが多くあります。症状からみる豆知識シリーズ第2弾、今回は腹囲膨満についてご紹介いたします。

 突然ですが、動物は人間と違って自覚症状を訴えることは多くありません。もし自分自身に異常が起こっていたらすぐに病院にいこうと思いますが、動物は飼い主のあなたが気づいてあげなくては病気でいても病院に行くことすらできません。それだけに、日頃から犬と遊んだりしつけをするのはもちろん、些細な異常も感知できるようペットの体調、体つき、食欲、飲水量、便、排尿などをよく観察しておくことがとっても大切です。

 そのなかでも、今回は体つきという見た目である面、飼い主のみなさまにも気づきやすい症状であると思います。腹囲膨満とは、急性あるいは慢性的におなか周りが張って膨らむ症状のことです。腹囲膨満を起こす代表的な状態と疾患をまとめてみました。

肥満:腹部痛はない。胸部、背部にも皮下脂肪がある。
妊娠:メスのみ。交配はあったか、乳腺の発達の有無などをチェック
腹水症:重篤な疾患が多く、類症鑑別が重要。後ほど詳しく。
消化管の拡張:胃拡張、捻転、腸閉塞など。
腹腔臓器の腫大:子宮蓄膿症、肝腫大、脾腫、膀胱の膨満など。
腫瘤:腫瘍、血腫、膿瘍など。
ホルモン性疾患:クッシング症候群、甲状腺機能低下症。

 上記の通り、おなかが張るのは肥満や妊娠によるものだけではないことが明らかです。順に説明していきましょう。

 まず、もっとも警戒すべきもののひとつに腹水症があります。本来、腹腔内臓器は腹膜という薄い膜で覆われていて、この腹膜は、臓器の防御と、特に物質の吸収をするという地味だが非常に重要な役割を担っています。その機能を上回るほどの液体が腹腔内に発生すると、腹水となり、それが多量に貯留すれば外貌からも判断できる腹囲膨満という症状となります。
腹水にも、いくつかの種類があり、原因によって性状が異なります。難しい話をすれば、総タンパク質や比重、細胞成分などによって細分化されますが、ここではわかりやすいよう簡単に分類しておきます。
1)血液
2)化膿した液体(化膿性滲出液)
3)水様の液体(漏出液および変性性漏出液)
4)ミルク色の液体(乳状液)

 最初に示した1)の血液が腹腔に貯留する原因としては外傷(事故による内蔵からの出血や、術後の出血によるもの)、腫瘍(血管肉腫など)、胃や脾臓の捻転による血管破裂、また血液凝固異常などもあげられます。
 2)の化膿性滲出液は、文字とおり“うみ”が溜まってしまうことです。子宮蓄膿症の破裂、腸の穿孔による内容物の漏出、外傷による腹部の穿孔、細菌や真菌感染の波及により発生します。
 3)では、低タンパク血症(低栄養、リンパ管拡張症、ネフローゼ症候群、タンパク漏出性腸症、慢性肝疾患など)、腫瘍(リンパ腫、腺がんなど)、また腸管から肝臓へと物質を輸送する門脈の圧が上昇するなどによって血管内から水分を引き出すことなどが原因で腹水となります。これらは“漏出液”と言われますが、“変性漏出液”では、うっ血性心不全(フィラリア症、僧帽弁閉鎖不全による左心→右心不全など)、腫瘍(特に血管やリンパ管を閉塞させる腫瘍)、これらによって水圧(肝静脈圧や門脈圧)が上がり血管内から水分が漏れ出ます。
 4)の乳状液は先天性、腫瘍、結核やウイルス性の感染症、フィラリア症などの心不全、リンパ管拡張症、膵炎によって発生する“乳び”と呼ばれる液体が貯留する場合や、“偽乳び”とよばれる乳びとは性状の異なる液体が貯留する場合があります。これはリンパ管圧の上昇によりリンパ管や乳ビ槽の破綻(破裂)によってもたらせます。
 ほかにも1)と3)が合わさった漿液血液状滲出液という場合もあり、それはやはり腫瘍(リンパ腫など)や、肝障害、猫伝染性腹膜炎(FIP)、脂肪組織炎、寄生虫性、破裂した膀胱や胆のうからの尿、胆汁により腹水となります。

 なんだか難しい単語をたくさん出してしまいました。流し読みしてしまった方のためにいいますが、これらに共通するのは、殆どがキケンであるクリティカル(重篤)な病気であるということです。代表的なものを抜粋すれば、例えば子宮蓄膿症の破裂によるもの、フィラリア、癌性腹水(腫瘍による腹水)、膀胱の破裂、猫ではFIPなど、早急に処置を必要とするものばかりなのです。

 しかし、おなかをパンパンに張らせるのは腹水だけとは限りません。ほかの原因だってまだまだあります。

 消化管の拡張も、おなかが張る原因の一つです。動物医療エマージェンシーの代名詞ともいえる、「胃拡張-胃捻転症候群」通称GDVは、胃が拡張し捻れる(捻転する)ことで胃の入り口と出口を閉塞させる疾患です。胃に付属する脾臓までも締め上げると同時に、胃内での発酵が進んでガスがたまり、急性に腹部が膨張する疾患です。明確な原因は未だ示されていませんが、疫学的には、大型犬に多く、食後の急激な運動のあとに起きやすいといわれています。熱中症とも関連し、夜間救急を主業務とする宮崎犬猫総合病院でも、夏場は多くのGDVが来院しました。
 腸閉塞、通称「イレウス」は、例えばボールを飲み込んだり、腸が内側にめくれこんで重なってしまう腸重積によって閉塞してしまうなどの場合と、機能的に腸管の神経が麻痺して閉塞状態となる場合とがあります。これらも、水道ホースの途中を塞ぐようなもので、閉塞部より前部の消化管でガスや内容物がパンパンに溜まり腹囲膨満となります。これも一刻を争う緊急疾患であることは言うまでもありません。

 腹水の部分でも触れましたが、破裂はしなくとも子宮蓄膿症によって膨らんだ子宮によって腹囲膨満となることもしばしばです。避妊の重要性が伺えますね。そのほか、肝臓の腫大や脾腫、腎臓の腫大でもおなかは大きくなります。腫瘍も腹水を溜まらせるだけでなく、大きく成長すれば腹囲膨満となります。
 ちなみに、動物では内臓腫瘍の治療は非常に困難で、抗がん剤療法も使用できるタイプは限られるし、手術するにしても延命率は人間ほど高くありません。人間のように腫瘍マーカーも動物用は今のところ無く、気づいたときには時すでに遅しということが多々あります。反面、人間よりも皮膚にできる腫瘍が多いのは事実で、これが冒頭で述べた「日頃からのペットの観察」が活きる部分でもあります。

 特殊な病気として、「クッシング症候群」という病気があります。特徴的なのは、腹囲膨満、薄い皮膚、脱毛、皮膚の色素沈着、などの症状が現れることです。ほかにも食欲の亢進、多飲多尿、元気があるなどの病気とは言えないような変わった病気なのです。副腎皮質ホルモン、つまりステロイドが多量に分泌されることでこういった症状が起きるホルモン性の特殊な腹囲膨満の原因ということです。

 これらのたっくさんある原因の中から一つの病気を診断するのは、ワザありものです。主訴、病歴の聴取、症状、病態、血液検査、超音波やレントゲンなどの画像診断、そしてなんといっても直感、これらを迅速にそして正確に把握し診断に結びつけることこそ、獣医師のテクニックなのです。私などはまだまだ未熟者ですが、プロフェッショナルな仕事をするために我々獣医師も日々努力して、あなたのペットが健康でいられるようサポートしていきます。

 さて、如何でしたでしょうか。なにもポンポコリンのお腹になるのは肥満だけではなさそうですね。あなたのペットは本当に肥満だけですか?もちろん、肥満は万病の源であることは言うまでもありませんが、これを読んで気になった方は一度動物病院で診察してみましょう。

 最近「たばる動物病院グループ」に来院した上記の関連疾患をいくつか紹介して、今回はおわりとしましょう。


 文責:小川篤志


固定リンク | 2008年11月17日【35】

ペット豆知識・号外第2弾「是非知っておきたい基礎から最新の知識まで」

●猫には、爪研ぎが必要? (難易度★★☆☆☆)
猫の爪は、新しい爪が内側から外側に向かって、重なってのびていきます。ちょうど、玉ネギのようなしくみになっています。爪を研ぐというのは、外側の爪を剥ぎ取っているのです。そこで、爪研ぎをしないと、外側の古い爪が残ってしまい、場合によっては、大きく太くなりすぎて、肉球に刺さってしまいます。特に高齢の猫で、動きも鈍くなり、運動もせず、研ぎもしない猫に多く見られます。若い猫でも、月に1回は爪を切って、外側の古い爪を取り除いてあげてください。
(Dr.藤吉)

●人間が風邪をひいたら、飼い猫も風邪をひいていた。猫の風邪は人間にもうつるの? (難易度★★☆☆☆)
人には人の風邪のウイルス、猫には猫の風邪のウイルスがあり、その両方に感染するウイルスは現在のところありません。同じ環境のもとに人と猫が生活していると、例えば気温の低下(寒さ)、湿度の低下、種々のストレスなど、発症の条件が重なるため、風邪をひいてしまいます。冬の到来の前に、ワクチンを接種しましょう。(最近お騒がせの鳥インフルエンザは人と猫で自然感染の事例が報告されています。猫では実験的にも感染しますが、犬では自然にも実験的にも感染が成立しないとされています。)
(Dr.藤吉)

●猫エイズは人間にもうつるの? (難易度★★☆☆☆)
上記の問題と同様に、人には人の、猫には猫のエイズウイルスが存在します。エイズウイルスは、サブタイプの種類が多く、変異株の出現には気を付けなければいけませんが、今のところ人と猫の双方に感染するウイルスは見つかっていません。ちなみに猫白血病もうつりません。最近、猫エイズに対しても有効なワクチンが開発されています。日本でも接種可能となっています。詳しくは窓口まで!
(Dr.藤吉)

●猫は狂犬病にかかりますか?  (難易度★★☆☆☆)
かかります。狂犬病と言う名前から犬固有の病気と思われがちですが、人を含めて全ての哺乳類が狂犬病にかかります。学名はRabies(ラビーズ)と呼ばれ、アメリカでは恐水症と呼ばれています。日本では1957年以後人の患者の発生はありませんでしたが、2006年8月にフィリピンで犬にかまれ日本に帰国後11月に狂犬病を発病し死亡した例が報告されていますが、日本での感染例ではありません。(日本は狂犬病清浄国!)人以外でも狂犬病に感染している動物がペットとして海外から日本へ持ち込まれる可能性は常にある事を認識しておきましょう。海外では日本国内と同じような感覚で現地の動物に手を出さないようにする事が重要ですね。ちなみに日本では戦後に犬から人への感染が問題となったので、狂犬病予防法で犬のみのワクチン接種が義務付けられています。狂犬病発生国では、ペットとして飼われている犬以外の哺乳類にワクチン接種を義務付けているところもあるくらいなのです。(ちなみに日本に輸入時に厳しい検疫が必要な動物は、犬はもちろん、スカンク、猫、アライグマ、キツネです)
(Dr.宮川)

●犬猫の平熱は何度ですか? (難易度★★☆☆☆)
一般的に直腸温で38.0度から39.2度くらいといわれてます。直腸温とは肛門に体温計をいれて測定したときの体温です。体温測定は重要な検査ですし、平熱は個々によって異なってきますので、病院でワクチン接種などで体温を測定したときにしっかりと覚えておきましょう。
(Dr.宮川)

●お薬(内服薬)の飲ませ方を教えて下さい。 (難易度★★☆☆☆)
内服薬には錠剤、散剤(粉薬)、液剤(シロップ)の3つがあります。錠剤は口を開けて直接押し込んでのませるか、食餌に混ぜて与えます。散剤は食餌に混ぜて与えて下さい。散剤は苦い薬が多いので水に溶いてのませるは難しい事が多いです。液剤はスポイトを使って舐めさせるように与えると飲ませやすいでしょう。
(Dr.宮川)

●犬猫の血液型はあるの? (難易度★★★☆☆)
 犬の血液型(赤血球型)は現在まで12種類以上が明らかにされています。そのなかで臨床的に重要なものはDEA1.1という赤血球抗原が陰性であるか陽性かであるかとされています。DEA1.1が陰性の血液はどの犬にも輸血できる性質があります。DEA1.1陰性の犬にDEA1.1陽性の血液を輸血すると輸血反応(不適合)が起こります。しかし、これも絶対的な検査ではありません。特に過去に輸血された動物では血球の凝集や溶血、アレルギー(ショックや蕁麻疹、黄疸など)などの血清反応がみられ、致死的となります。当院では1時間半〜2時間をかけてクロスマッチングテスト(血液交叉試験)を1例ごとに丹念に実施しています。これは血液型そのものが分かる検査ではありませんが、血清学的にトータルの適合性をみる意味で最も優れた検査であると確信しています。そのつどドナー(供血者)とレシピエント(受血者)の血球と血漿をそれぞれに混和(主試験と副試験の2つがある)して、凝集の程度を顕微鏡で直接観察し、適合か不適合かどうかを判定することにしています。これは当院が開院して以来、欠かさずに実践している検査です。一方、猫の場合はA型抗原とB型抗原の2種類の組み合わせにより、A、B、ABの3つの血液型が存在します。「猫血液型判定キット」が動物用医薬品として利用可能です。当院では犬と同様な理由で猫でもクロスマッチングテストをそのつど行っています。
(Dr.田原)

●犬猫の体温はどうして直腸(肛門)で測るの? (難易度★★★☆☆)
動物でも人と同じ理屈だと思いますが、体のどの部位(臓器)の温度が体温として最もふさわしいのかというと、心臓から出たての大動脈血でしょうか。人も動物も麻酔下でセンサーでもセットしていない限り、大動脈血の温度を測定することは不可能です。そうなるとどこで測定することが最も大動脈血に近似なのでしょうか。人では口腔内か腋下(腋カ)で測定します。動物は噛む(咬む)ことや、体毛があること、また保定が困難などの理由で難渋します。この点、動物では直腸(肛門)が手技的に最も容易で、しかも大動脈血の温度を再現性ヨロシク反映してくれるのです。参考までに、とある日の愛犬「ベル」の部位別の測定値を示しておきましょう。直腸温38.5℃、腋下38.1℃、口腔内(口角)37.8℃、内股37.9℃、耳(外耳道内)37.8℃でした。
(Dr.ポニョ)

●動物の点滴(輸液)はどのように考えられているの? (難易度★★★★☆)
基本的には人と同じ考え方です。ルート(経路)は、稀に腹腔内に実施することがありますが、静脈と皮下への点滴が主体です。輸液は動物の状態(重症度)や症状によって種類や量を決めます。例えば嘔吐が主体であれば生理食塩水を選択し、下痢が主体であればリンゲル液を選びます。腎臓の機能低下があれば塩分の少ないものを、肝臓が悪ければ酢酸塩の添加してある輸液剤を点滴します。心不全があれば塩分濃度の少ないものを選び、速度も遅くします。強肝剤やビタミン剤、カルシウム、カリウム、(利尿剤)なども添加するのが通常です。術後や重症例では24時間点滴が基本です。当院では動物のストレスを軽減させるため、輸液ポンプの貸し出しや在宅での皮下点滴も積極的に推奨しています。適正な点滴(輸液)は犬猫の診療では無くてはならないツールです。
(Dr.田原)

アトピーの減感作療法とはどんな治療法ですか? (難易度★★★★★)
アレルギー(アトピー)の原因となるアレルゲン(抗原)の薄いエキスが入ったカクテルをオーダーし、少量ずつ皮下注射します。アレルゲンの種類はあらかじめの血清中IgE抗体の有無(濃度)で特定します。約10ヶ月の期間をかけて増量し、80%の症例で効果があるとされています。その後は月に一度の維持量注射で管理します。理論は、この方法でIgGの抗体を産生させ、急性のアトピー反応を抑止することによります。当院でも減感作療法を始めました。詳細は受付まで御相談下さい。
(Dr.田原)


Dr.小川の連載「ペット豆知識」の掲載遅延に対しての御迷惑、お許しの程を! 掲載停滞時の「号外編」も乞うご期待!

たばる動物病院・獣医師一同


固定リンク | 2008年11月13日【36】

ペット豆知識No.17-咳は万病の証(あかし)です-

 だんだん寒〜くなってきました。季節の変わり目といえばカゼ、カゼといえば咳。
ところで犬の咳はどんな風にするか知っていますか?猫の咳はどんな風にするか知っていますか?

 いままでのペット豆知識では、特定の病気(病名)についてフィーチャー(feature=連載)してきましたが、今回は『咳』という症状に焦点をあててみることとします。体はなぜ咳を出そうとするのか。何が原因で咳が出るのか。咳のメカニズム、そして咳を起こす病気の種類など、あなたはペットの咳をどれだけ理解してあげているでしょうか。

 咳とは不思議なもので、人間では単に病気によって起こるものではない場合があります。たとえば、咳によって人の注意を引こうとしたり、緊張をほぐしたりすることがそれにあたります。せきばらいなんかはその代表例ですよね。文献では犬でも飼い主の注意を引くために咳をすることもあると記載されていますが、実際には断言できるとは考えにくく、つまり動物は『セキ=何かしらの疾患』というように考えたほうがよいでしょう。

 発咳(はつがい)つまり咳は、声門を閉鎖したあと呼吸筋によって肺の内圧を上昇させ、その後一気に声門を開くことで爆発的に空気を噴出させる反応で、その時速はなんと900km以上(!)にもなると言われます。咳は体内のもっとも強力な反射のひとつで、肺への異物混入を知らせる警報システムと防御システムを兼ねた非常に高度な反射です。
 咳は、喉頭部、気管、気管支の興奮によって生じ、迷走神経、三叉神経、舌咽神経、横隔神経を介して延髄にある咳中枢に伝わり、それが声帯、肋間筋、横隔膜、腹筋が運動することで起こるのです。

 気管支には多くの刺激受容器(irritant receptor)とC線維(C-fiber)があり、それぞれが、埃、異物、物理的刺激や化学的刺激(刺激性ガス、水、酸など)、冷気、炎症、粘膜の浮腫などによる刺激を感知することで初めて激しい咳反射を起こすのです。咳のあとに嗚咽(おえつ)が出やすいのは、嘔吐中枢であるCTZ(化学受容体引き金帯)の近くに咳中枢が存在するためで、別に周囲に大げさなフリをしているわけではありませんよ。
(警報システムである一方、咳のしすぎは、気管の炎症を起こしたり、過敏状態にさせたり感染を拡大させることもあります。)

 咳の警報が鳴ったということは呼吸器系における何かしらのトラブルが発生しています。では、どんなトラブルがこの咳という警報を鳴らすのでしょうか。以下にその原因をあげてみます。

・気管炎:過度の無駄吠えやホテル時の分離不安による吠え過ぎ。 散歩時のリードの引っ張り過ぎ。これらの原因による気管の炎症は意外に多い。
・肺炎、気管支炎など呼吸器系の炎症。(誤嚥、ウイルスや細菌などの感染による)
・うっ血性心不全(MR:僧帽弁閉鎖不全、拡張型心筋症、犬糸状虫症など)
・気管虚脱
・気管の低形成
・腫瘍(原発性肺腫瘍、または転移性肺腫瘍)
・肺水腫(心原性、電気コードを咬む、気道閉塞、ケイレン、頭部外傷など)
・肺血栓塞栓症
・食道内異物、炎症、腫瘍、また、食道拡張症
・寄生虫性(肺吸虫、肺虫などの寄生。まれ。)
・気管支喘息、好酸球性肺炎などのアレルギー
・刺激性ガスの吸引
・液体や固形物の吸引
・外傷

などなど。
さらに、状況別に出るセキの種類という観点からもまとめてみましょう。


●夜に多い咳:心疾患、気管虚脱、肺水腫など
●昼夜を問わない咳:アレルギー性、肺炎、感染症、腫瘍など。
●運動や興奮時:心疾患、気管虚脱、首輪による咳
●飲水時:誤嚥、気管虚脱
●食事中やその後の咳:気道閉塞、食道梗塞、誤嚥、喉頭麻痺、巨大食道症(食道拡張症)、食道狭窄症など

 もちろん全てが確実にその瞬間に咳をするとは限りませんし、状況によっては組み合わさって出る場合もありますが、教科書的にはこう分類されるので参考にしてみてください。

 そもそも、咳には湿性乾性の2種類があり、文字通り、湿ったような咳(ぜえぜえという息づかい。痰がからむような呼吸)と乾いた咳(ケホケホしたような、いわゆる一般的なセキ)とでわけられます。湿性には、肺水腫や、肺炎、寄生虫性などがあり、乾性では気管支炎、心臓性(心肥大による)、ほとんどのアレルギー疾患、肺の異物、腫瘍、気管虚脱などがあります。

 総じて湿性の咳は気管支や肺の実質(=肺胞)に痰やなんらかの水分などが溜まることで起こるため、緊急性が高いものが多く、特に肺水腫は救急疾患の代名詞ともいえる非常事態です(心不全による肺水腫のほかにも、電気コードをかじって感電しても肺水腫となる)。チアノーゼを起こして舌が紫色に変色し、呼吸状態が劇的に悪化するのが特徴です。
 肺炎も原因はさまざまですが、その日のうちに致死性に悪化する傾向があるほどで、これも見逃せません。特に子犬では犬ジステンパーや犬アデノウイルス況心鏡症、犬パラインフルエンザなどのウイルス疾患によって致命的な肺炎を起こす場合があります。Kennel Coughと呼ばれ、犬舎やペットショップなどで蔓延しやすい集団感染する可能性のある感染症です。 
 我々がもっとも警戒するもののひとつに誤嚥性肺炎があります。特に麻酔後は声門(気管の入り口)の開閉が不自由で、異物を吸引したり誤嚥(ごえん)してしまいやすくなります。術前に絶食するのはこのためです。とくに胃酸の吸引(酸吸引性肺炎)は危険で致死的になることもしばしばあります。

 乾性の咳で考えられるセキのひとつには心肥大があります。心疾患が進行し肥大してくると物理的に気管を圧迫してセキが発生します。とくに僧房弁閉鎖不全症による左心房肥大での咳は非常に多い疾患です。気管を物理的に圧迫する…といえば、散歩時に首輪を強く引っ張ることでもセキをしますね。これらは、運動や興奮によって悪化します。

 気管虚脱とは、気管が軟骨の支持を失ってぺちゃんこになる病態で、これは、Goose Honkと呼ばれる、ガチョウの鳴き声のようなガァガァという感じの咳をします。ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、チン、パグ、シーズーなど、小型愛玩犬腫や短頭種によく発生します。短頭種は、短頭種症候群という呼吸器系のハンデをもっていて、外鼻孔狭窄、扁桃拡張、軟口蓋過長症、声門の狭窄、外側喉頭小嚢外反、そして、喉頭・気管の虚脱で特徴付けられます。まあつまり早い話、呼吸器系が極度に弱いのです。気管虚脱は上記の犬種のほかトイ・プードルや無駄吠えの過ぎる犬、肥満犬に多いのも特徴ですよ。

 もちろん、肺がんでも咳が出る場合があります。犬は人間と違って肺が原発の腫瘍は少なく、骨肉腫や乳腺などの腺癌などから肺転移する二次性の腫瘍によるものが殆どを占めます。
 猫での喘息も散見されます。ロイコトリエンという物質が喘息を発生させると考えられていて、タバコ、ハウスダスト、埃(特に砂のトイレの粉が舞うこと)、花粉などが原因とされていますが、実際にはよくわかっていないのが現状です。シャム猫あるいはシャムの雑種に多いようです。

 さて、序盤で犬猫の咳はどのようなものなのか聞きましたね。わざわざ質問するということは、人間のようにごほっごほっと咳き込むのではありません。なかなか活字で表現するのは難しいですが、犬は「ヘェッ!へッ!!!」といった感じです。猫の咳はめずらしく、ちょっと変わっています。高い音で「ヒィッ!ヒィッ!ヒィ!」そんな感じでしょうか。
 案外、飼い主は咳を咳と認識せずにつれて来ることが多いです。吐いてるとか、変な声で鳴くとか、咳とは関係ないことを主訴にしてきます。どうも違うと思って、こんな鳴き方じゃないですか?といって「ヘェッ!へッ!!!」と真似してみせると、「あー!それですそれ!」なんてことも度々あります。

 咳は病気のサインです。咳に気づいたら何かの病気が潜んでいます。原因はさまざまで、それは獣医師でないと判断は難しいでしょう。中には肺水腫のように非常に緊急性が高いものもあります。インターネットで、例えば、このペット豆知識で書いてあったからといって、飼い主さんが独断で診断を下すのは危険なことです。あくまで、『豆知識』のレベルにとどめて頂き、様子がおかしいとおもったら必ず動物病院に連れて行き、獣医師の判断を仰ぐようにしましょう。


文:小川篤志

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